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【コラム】 液化ヘリウムコンテナについて
 

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液体ヘリウムコンテナをご存知だろうか。
日本では珍しい40ft級サイズ、かつ極低温輸送を実現するため様々な工夫が施されており、タンクコンテナの中でも異彩を放つ存在ではないかと思う。
今回は液化ヘリウムコンテナをテーマとし、ヘリウムの輸送やコンテナの仕様、取扱業者について簡単に紹介する。


1. ヘリウムとは

ヘリウムは、無色・無臭・無味で最も軽い希ガス元素である。
ヘリウムの大きな特徴として、不活性であること、軽い物質であること、さらに沸点が最も低い(−269℃)が挙げられる。

ヘリウムというと風船や声が変わるヘリウムボイスを思い浮かべる方も多いかと思うが、実際には医療や工業・研究など多種多様な用途で使用されている。内訳を以下に示す。

*日本産業・医療ガス協会の2018年販売実績データ、日刊工業新聞を基に作成

ヘリウムガスは、工業用として光ファイバーや半導体を製造する際に、焼成や溶接の過程で用いられる雰囲気ガスとして大量に使用されている。
一方液体ヘリウムは、沸点・融点ともに最も低い元素である性質を活かし、研究・応用の様々な場面で用いられている。特に超伝導状態を生み出すための冷却剤として使われるケースが多く、医療で用いられるMRIなどで使用されている。


2. ヘリウムの輸送

ヘリウムは、アメリカ、カタール、アルジェリア、ポーランド、ロシアといった限られた地域でしか生産されない。従って日本の場合、ヘリウムは全量を海外からの輸入に頼るしかない。
その輸入の際に用いられるのが、液化ヘリウムコンテナである。液化状態で輸送するメリットとして、ヘリウムは液化すると常温のガスに比べ、体積が約1/800となり、輸送効率が大幅に向上する点が挙げられる。

輸入されたヘリウムは、以下の図のような体制で各顧客の元に届けられる。

*岩谷産業ホームページより引用

コンテナにより輸入されたヘリウムは、国内の各ヘリウム供給拠点において、デュワーやシリンダー、カードル、トレーラーなど、それぞれの需要に合わせた形で再充填され、顧客へと運ばれてゆく。また、必要に応じて液化ヘリウムコンテナが直接顧客のもとに輸送されるケースもある。


3. 液化ヘリウムコンテナ

日本の海上コンテナを使用したヘリウムの輸入は1970年代ごろから始まった。かつては20ftサイズのコンテナも使用されていた(下写真)が、現在は40ftサイズのコンテナが主流となっており、42TG、42KW、4278などタンクタイプのコンテナや、チューブタイプのコンテナも存在する。また、原則として鉄道輸送は禁じられており、"NOT FOR RAIL TRANSPORT"といった注意書きが付されている。


*Air Products社の20ftヘリウムコンテナ  [低温工学 Vol. 12 No. 5 (1977) "液体ヘリウムの輸送" より引用]

ヘリウムは-269℃以下という極低温でしか液化状態で存在しないため、コンテナには様々な工夫が施されている。
以下に、大陽日酸のコンテナの簡単な系統図を示した。これを基に、コンテナの仕様を紹介する。


*液化ヘリウムコンテナの系統図  [配管技術('94.11.) 解説 "ヘリウムコンテナの製作と技術" より引用]

内部は液化ヘリウム(LHe)槽、ガスヘリウム(GHe)シールド、液体窒素(LN2)シールド、外槽の順に組み立てられている。
LHe内槽へは液化ヘリウムの充填・払い出し、ヘリウムガスの抜き出し、液化ヘリウムの小分け用配管がそれぞれ通じている。
LHe槽を覆うGHeシールドおよびLN2シールドは、LHe内槽への侵入熱を減らし、液化ヘリウムの蒸発を抑えるために設けられている。ここで、GHeシールドは、液化ヘリウム充填時などに発生する蒸発ガスの顕熱を利用して、シールド板を冷却している。また、LN2シールドはLN2リザーバから供給される液化窒素によってシールド板を冷却するものであり、輸送時を含め常時使用される。
さらに、この系統図で示されているように、各槽やシールドの間に、アルミ蒸着マイラーとガラス繊維紙の積層から成るスーパーインシュレーション(多層真空断熱)を施工し、断熱性能を向上している。


コンテナの製造はGardner Cryogenics社などの一部のメーカーに限られていたものの、近年では大陽日酸やLindeなどが自社で液化ヘリウム用のISOコンテナの製造を行っている。


4. 各輸入・充填会社とコンテナ

岩谷産業


岩谷産業のコンテナ (参照:IICU)

ヘリウムガス国内最大手。米国だけでなくカタール産のヘリウムの輸入権益も獲得。輸入したヘリウムは、中国やマレーシアなどにも販売している。国内の主要な拠点として、東京ヘリウムセンター(茨城県稲敷郡阿見町)と大阪ヘリウムセンター(大阪市住之江区)がある。


ジャパンヘリウムセンター(大陽日酸・Matheson Tri-Gas)


大陽日酸のコンテナ (参照:TNCU)。 1990年代よりコンテナの自社製造を開始している。


Matheson Tri-Gasのコンテナ (参照:MTGU)

産業ガス大手の大陽日酸系。大陽日酸は2006年のBOCのヘリウム事業の買収などを経てヘリウムの主要サプライヤーの一つとなっている。現在は、子会社のマチソン・トライガス(Matheson Tri-Gas)から液体ヘリウムの輸入を行っている。大陽日酸のほか、日本エア・リキード、巴商会、鈴木商館、ウエキコーポレーションとも取引がある。川崎に本社兼工場がある他、青梅・名古屋・北九州にも拠点を持つ。ジャパンヘリウムセンターには、大陽日酸の自社コンテナのほか、Matheson Tri-Gas社のコンテナやユニオンヘリウム社のコンテナなども出入りしている。
2018年に、大陽日酸はマチソン・トライガスを通じ、ロシア・ガスプロムとヘリウム売買契約を締結している。2021年より東シベリアから産出する液体ヘリウムの輸入を始め、日本だけでなく中国や韓国、台湾向けへのヘリウム供給を行う予定である。


日本ヘリウム


日本ヘリウムのコンテナ (参照:NHCU)

エア・ウォーターグループ。設立時に三井物産も出資している。
日本で最初の特殊断熱コンテナによる液化ヘリウムの長距離海上輸送に成功した、日本のヘリウム事業における草分け的存在。
もともと横浜市鶴見区に本社工場があったが、2018年に川崎市に移転。川崎本社の他、関連会社に充填委託契約をしており、石狩・見附(新潟ガス工業)・名古屋(竹中高圧工業)・高石(泉北酸素)・宇土(九州エアウォーター)にも拠点を持つ。
エア・ウォーターグループは、かつて全量をアメリカのAir products社から輸入していたが、近年はカタールやロシアからの輸入も行っている。


日本エア・リキード


Air Liquideのヘリウムコンテナ。 (参照:ALGU)

仏エアリキードの日本法人。主要な拠点は尼崎など。BICにおける所有者コードはDubaiのAir Liquide Global Helium Fzeで登録されている。


ユニオンヘリウム


ユニオンヘリウムのコンテナ (参照:UHCU)

大陽日酸グループだが、昭和電工との繋がりが深い。主力の川崎工場は、扇町の昭和電工川崎事業所内にある。この他、尼崎・仙台に拠点を持つ。上記の企業の他、東京ガスケミカル・小池酸素などにも卸している。


国内で見られるヘリウムコンテナは上記のものが殆どだが、外資系を中心に他企業のコンテナが見られることもある。

※2023/08/11 追記

Air Flow社のコンテナ (参照:AFLU)


ヘリウムは、希少な資源の一つであるため、需給バランスの変動など様々な要因で調達先が変わることもある。今後の動向に注目したい。




【参考】
ヘリウムのつくられ方 ー 一般社団法人日本産業・医療ガス協会
ヘリウム: Iwatani|岩谷産業-産業ガス・機械事業
日本ヘリウム ホームページ
ジャパンヘリウムセンター ホームページ
ヘリウム_ Heliumー 日本エア・リキード 
11,000ガロンヘリウムコンテナ ー 大陽日酸
11,000 ガロン ヘリウムコンテナ ー 宮井 玲, 大陽日酸技報 No. 23(2004)
低温技術講座 "液体ヘリウムの輸送" ー 田中 聖三, 低温工学 Vol. 12 No. 5 (1977)
ヘリウムコンテナの試作 ー 和気 秀之 他, 日本酸素技報 No.12 (1993)
ヘリウムコンテナの製作と技術 ー 肥後 盛長, 配管技術 = The piping engineering. 36(13)(478) (1994)
特集 低温と高圧力下物性研究の未来 "ヘリウム需給の見通し"  ー 大家 泉, 高圧力の科学と技術 Vol. 22, No. 3 (2012)


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